普段私は、インターネットで様々な絵本を検索し、注文している。
しかし、たまに遠方に出かけた時には、その街の本屋さんに足を運ぶ。
絵本との思いがけない出会いを求めて。
確かにインターネットでの絵本選びの方が能率は良いのだが、
知らず知らず自分の興味・関心に限定された絵本選びになっていることが多い。
視野が狭くなっていると言ってもよい。
そんな私が街の本屋さんに行くと、本を選ぶ時間はかかるが、
思いがけない分野の本に出会ったり、
しばらく前に気にかけていたけど忘れていたような本にばったり出会うことがあって、
おもしろい。
昨日ばったり出会った絵本、それがかこさとしさんの『人間』
今年の5月、絵本作家かこさとしさんが92才で亡くなられた、というニュースを目にしていた。
昨日の本屋さんでは、なんと「かこさんのコーナー」が作られていたのだ。
かこさとしさんというと、『だるまちゃん』シリーズや『からすのパンやさん』などがとても有名だ。
私自身、かこさんの絵本には多くの思い出がある。
中でも、『からすのパンやさん』を私はもちろん読んでいたし、
自分の子どもにも読んで聞かせ、一緒に絵本の中のパンを食べた経験もある。
『ならの大仏さま』は、修学旅行で奈良・東大寺に行く地元の6年生の事前学習として読んだこともある。
92才というお年から想像できるように、実は、かこさんは戦争経験者のお一人だった。
中学2年生で、自らの進路を「軍人」と決め、そのために「数学と理科と心身の鍛練」に励むのだが、
2年後の身体検査で士官学校の受験資格がないと言い渡される。
戦前から戦後の激動の時代の中で、
敗戦をきっかけに手のひらを返すように態度を変えた大人たちに対する不信感や
軍国少年だった自らへの悔いを抱えながら生きた方だった。
生活困窮者を支援する「セツルメント活動」に力を注いだり、
サラリーマンと絵本作家の2足のわらじを履いていた時代もあったのだそうだ。
「自分で考え、自分で判断して、自分のちゃんとした考えを貫ける、
そんな賢い子になってほしい。それが私の願いです」
「大人の洗礼を受けていない子どもさんたちのために、少しでもお役に立てないだろうか。
せめて愚かで間違った判断をした自分のような人生を送ることのないよう伝えたい」
かこさん自身の悲しみや後悔や次世代への願いが昇華されて、
たくさんの楽しい絵本が世に送り出されていたことを、
かこさん没後、知ることになった。
10年以上の歳月をかけ準備され、1995年に出版された『人間』は、
当時としては最先端の内容であっただろうし、
現代にも十分通用し、子どもだけでなく大人の私たちにとっても学び多いものとなっている。
その内容の正確さは、工学博士・技術士としても関わっておられた経歴からうなずける。
本書の最後は、こんなメッセージでしめくくられている。
子どもたちへの慈愛に満ちたかこさんの言葉に、私も、励まされた。
「このように、その細胞や脳やからだや心に、宇宙・世界・地球の、
歴史と現在と未来とをやどしているのが人間です。
その人間のひとりがあなたです。
そのすばらしい人間が、君なのです。」 (記:源光寺住職 福間玄猷)
今日の絵本:
『人間』加古里子 文・絵 福音館書店
https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=614