「だいじょうぶ」背景にある豊かな体験とぬくもりのある関係性に ほっこり 

2019年12月14日

「仕事がらみで「今度、お食事でも」という言葉に何度もだまされていました。
まだ数回しか出会っていない人同士がそんなやりとりをしているけど、
一度も食事に行ったことはありません。
結局あれは、単なる社交辞令なのですね。
思ってもないことを口にするなんて。だから大人は嫌ですね。
これは、月参りで出会った、30代の会社員の言葉である。

「大丈夫 大丈夫」

 この言葉も、日常会話で何気なく使う言葉の一つである。
特に、大切な人を力づけたり、励ましたりするときによく使う言葉。
でもこの言葉、受け取る側にとっていつでも励ましの言葉になっているのだろうか。
私は以前、大きな悲しみを抱えていた時、「大丈夫!」といわれて、
素直に「大丈夫なんだ!」と思えなかった時が何度もあった。
「何が大丈夫なのだ!私のことを知りもしないで?」むしろ反発を感じたことがあった。
また、支援者として心理学の学びを深めていく中でも、
「大丈夫!と安易に声をかけないように」と教わってきた。
だから、この絵本を手に取った時、その題名に大きな違和感を持ったのが正直な感想だ。
(後に、小学校の国語の教科書にも採用されている)

おじいちゃんとその子(=孫)の散歩は、まさに子どもの成育・発達そのものだ。

おじいちゃんとの散歩を通して様々なものを見たり教えてもらい、
その子はいろいろなことを学んでいく。そして、その子の周りは魔法にでもかかったみたいに、広がっていく。

大人にとってはどれほど当たり前で、見慣れた風景であるとしても、
その子にとっては、遠くの海や山を冒険するような楽しさにあふれている。
どきどき ワクワクな 時間なのだ。
つい、大人が忘れている視点だ。

でも、その学びの中には、
世の中には危険なことや不安なこと、難しいことがたくさんあることを
知ってしまうことも含まれる。そして、その子は「このまま大きくなれそうにない」と感じるのだ。
大人にとっては「それが世の中だ(あたりまえだ)」と理解していることでも、
その子にとっては、「このまま大きくなれそうにない」と感じるほどの
強い心配や不安になっておそってくるのだ。
これも、大人が忘れている視点だ。

実際、ある小学6年生の読み聞かせで
「皆さんが見聞きする出来事の中で、こわいと思うものはどんなことですか」
と質問すると、

自分が抱えるけがや将来の一人暮らし、
また、親を含めた大人におこられることを怖いと思う子どもや、
死んでしまうことについて怖いと思う子どもがいたし、
地震・殺人・不審者・事件・事故をこわいと思う子どももいた。
さらに、現代を反映して、外国からのミサイルや戦争という声も上がった。
意識するしないにかかわらず、世界の様子が子どもたちの耳にも入り、
その心に影響を与えていることが明らかになった。

でも、
おじいちゃんとその子(=孫)においては、「だいじょうぶ」だった。

わざとぶつかってくるような車も飛行機も、めったにないし、
たいていの病気やけがは、いつか直ったし、
友達ともいつの間にか仲直りが出来たし、
犬に食べられたりもなかったし、
けがや病気もすっかり治ったし、、
難しい字も読めるようになるだろうと見通しが立てられたし、

その子の歩みの中で、一つ一つ「だいじょうぶ」という手応えを実感することが出来ているのだ。
そして、その実感がその子自身の生きる力(=自信)に転換されているし、
さらには、年を重ねたおじいさんへの思いやりの言葉として、語られていくのだ。

「だいじょうぶ」とは、単なる(だいじょうぶ)という音声ではない。
信頼できる人との関係性と体験の共有に裏付けされた言葉であり、
人に生きる力と思いやりを届けるぬくもりのある言葉だった。

「大丈夫」という言葉に、多くのことを気づかせてくれた絵本だった。

■今日の絵本:『だいじょうぶだいじょうぶ』 いとうひろし/作/絵 講談社
講談社:http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062528634
(2018.2.15掲載分再録)

投稿者について

福間 玄猷

1971年生まれ。本願寺派布教使・源光寺第14代住職 別名「絵本のお坊さん」 大阪府茨木市出身。平成8年三次市・源光寺へ入寺。《様々な経験を持った人々が集い、信頼できる温かなつながりを育む》そのような交流館を目指して、赤ちゃんからご年配の方まで世代を超えた活動を続けている。寺院や福祉施設はもちろん、各地の学校や保育所、コミュニティーセンター・いきいきサロンなどに招かれ、「いのち・こころ・真実を見つめる」ご法話や講演を重ねている。また、「子育て支援」「アドバンスケア・プランニング」「グリーフケア」を柱にした研修会も好評。子どもたちと富士山登山を3度完遂。グリーフケアアドバイザー1級/発達障害コミュニケーション初級指導者/つどい・さんあい 運営委員

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA