5年ほど前になるだろうか。60代の男性のお通夜での思い出だ。
そのお宅は、ご門徒さんで名簿を通してお名前を知ってはいたが、
私にとっては直接の面識がない方だった。お宅に伺うのも初めて。
ご当家の事情もあり、枕経(=臨終勤行)を勤めることなく、いきなりのお通夜となる。
狭い玄関に靴がたくさんあふれている。
亡くなった男性を囲んで家族や親戚、外には近所の人が参っていた。
その男性には息子さんがいた。
大きな身体、着込んだジャンパーの背中には龍の刺繍が施され、髪の毛も独特のスタイル。
初対面でもあったため、久しぶりにドキッとさせられた。
こちらが声をかけても、多くを語らずぶっきらぼう。
正信偈を唱えながら、頭の中では「どのようにご法話をしようか」
ぐるぐる回っていた。正信偈が終わってしまった。御文章も終わってしまった。
さあ、と思ったが、なぜか言葉が出ない。
ようやく「明日のお葬儀も精一杯勤めさせていただきます」と一言。
せめてと思い「これは源光寺のパンフレットです。夜も長いのでよろしければご覧ください」
と年間行事を載せたパンフレットを手渡した。
無視されるかと思ったが、その息子さんはパンフレットを開いた。
そして行事案内を見て、一言。「いろんな行事をやっているんやなあ」
その声に(これからご縁がつながるかな)と思った私は
「有り難うございます」と言葉を返した。
そのお宅は、数年後おばあちゃまが亡くなられた。
お父さんの時と同じように七日参り・ご法事をお寺でお勤めなさる。
一緒に参られるお母さんは、社員寮の食堂を息子さんと一緒に切り盛りされている。
息子さんは、毎回お経が終わると「忙しいから」と帰り支度。
相変わらずぶっきらぼうのままで、ご法話をお聞きいただくご縁はなかなか調わないままだった。
心残りのご門徒さんのお一人だ。
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