源光寺の前は、地元の小学校の通学路になっています。毎日、子どもたちがランドセルを揺らしながら集団登校で元気よく学校に向かい、午後は友達同士、楽しそうにおしゃべりしながら家路につく姿が見られます。
そんな日常の中で、時折、子どもたちがお寺に駆け込んでくることがあります。
「友だちがケガしました!」
「鼻血が出ちゃった…」
「トイレを貸してください」
特に4月は、新しい学年が始まったばかり。小さな体で、重たいランドセルを背負い通学する新一年生の姿も見られます。朝の準備が間に合わなかったのか、慌てて家を出てきた子どもたちもいるようです。
先日、毎朝子どもたちを見守ってくださる地域の方から、「源光寺さん、お寺のトイレの鍵、閉まっているみたいですよ。ちょっと確認しておいてくださいね」と声がかかりました。
「え?そんなはずは…」と思いながらトイレに行ってみると、いつも通り鍵は開いていますし、トイレ周辺も特に変わった様子はありませんでした。
今度お会いした時に、特に変わったことがなかった旨をお伝えしようと思った、その時です。
ひょっとして、大人の私でも少し硬いと感じる丸いドアノブは、小学校に入りたての小さな子の力では回せなかったのかもしれない。だから、「鍵が閉まっている」ように感じたのかもしれない、と。
日常の生活道具のほとんどが右利き仕様になっているように、自分が何気なく使っているものであっても、使う人によっては使いにくいということがありますね。同じように、大人にとっては「当たり前」のことが、子どもにとっては大きな壁になっていることがある。そのことに気づかされました。相手の目線、相手の状況に立って考え直すことの大切さを改めて教えられました。
とはいえ、古いドアのこと。ドアノブごと交換するとなると、合う部品を探すのも大変ですし、建具屋さんにお願いすれば費用もかかります。うーん、どうしたものか…。
そんな時、ふと一つのアイデアがひらめきました。「そうだ、ドアノブに後付けできるレバーを探してみよう!」
早速、通販サイトで探してみると、手頃な価格で良さそうなものが見つかりました。(写真1)
翌日には商品が届き、不器用な私でも簡単に取り付けることができました。(写真2)
これで、握力の弱い小さな子どもたちも、安心してドアを開け、トイレを使うことができるでしょう。この解決策を思いつけた時、そして無事に取り付けられた時、自分自身を少し褒めてあげたい気持ちになりました。
実は、この「レバーを取り付ける」というアイデア、どこかで聞いたことがあるなと考えてみれば、数年前に家庭介護の講義で耳にしたことだったのです。家族の介護に関わっていたわけではありませんが、その時、「お年寄りの方が自分の力で生活できるよう、様々な福祉用具が開発されているのだなあ」と学んだ記憶がありました。
このことから、「今すぐには必要ない」と思われる知識や経験であっても、見聞きしておくこと、そして考える機会を持っておくことは、決して無駄ではないと実感しました。いつか直面するかもしれないトラブルに対して、予期せぬ形で過去の学びが解決の糸口になったことに感動しました。
今度、トイレを借りに来る子どもたちが、この新しいレバーを見て、そして楽にドアを開けられた時、どんな笑顔を見せてくれるでしょうか。そして、その笑顔から、私たちはまた何を学ぶことができるでしょうか。
あなたの周りにも、ご自身の「当たり前」が、誰かにとっては「当たり前ではない」場面があるかもしれませんね。少しだけ周りに目を向けてみると、新しい気づきや、優しい工夫が生まれるきっかけが見つかるかもしれません。