








月末になるとバイクにまたがり、毎月の配布物『御堂さん』をお届けします。
朝晩はまだ少し肌寒いものの、日中は汗ばむほどの陽気となり、駆け抜ける風も心地よく感じられる季節となりました。ふと周りを見渡せば、木々の新緑が突き抜けるような青空に映え、目にまぶしいほどです。そして、あちこちの田んぼには水が張られ、カエルの声が聞こえ、早いところではもう田植えが終わった家もあるようです。水面がキラキラと輝き、これから始まる稲の成長を思うと、心が和みます。
しかし、その一方で、心に少し影を落とす思いもあります。それは、私たちの主食であるお米を取り巻く厳しい状況についてです。元来、食料自給率が低いと言われるこの国で、お米だけは高い自給率を誇り、私たちの食卓を、そして美しい田園風景を守ってきてくれました。それは、私たちの誇りでもあったはずです。ところが、昨今の米価の変動や政策の矛盾は、長年お米を作り続けてこられた方々の心を、深く揺さぶっているように感じます。
現在、この地域で田んぼを守っておられるのは、その多くが70代の方々です。「ご先祖さまから受け継いだ大切な田んぼだから」と、赤字覚悟で大変な手間と愛情をかけて、稲を育ててこられました。『御堂さん』を配りながら、地元の方々の姿を思い浮かべ、頭が下がりました。それぞれの田んぼには、長年にわたる様々なドラマが隠れているに違いありません。そして、「この美しい田んぼの風景は、いつまで見られるのだろうか」という不安もよぎりました。今の状況下では、次の世代が田んぼを受け継いでいくことは、本当に困難なことでしょう。気づけば、いつもより多く田んぼの写真を撮っていました。
お金を出せば何でも手に入る時代。効率化ばかりが求められる時代。その中で、天候に左右され、大変な手間のかかる農業をはじめ、漁業・林業などといった第一次産業がどんどん厳しい立場に置かれている現実に、私は静かな危機感を覚えます。私たちの「いのち」の根幹を支えてくださっている方々が、誇りを持って仕事を続けられる社会であるために、私たち一人ひとりに何ができるのでしょうか。ただ消費するだけでなく、作り手の苦労や思いに心を寄せ、「有り難う」「お陰さま」の気持ちを伝えていくこと。そして、この国の食と農の未来について、他人事ではなく自分のこととして考えていくこと。
田んぼに張られた水面に映る青空を見上げながら、そんなことを深く考えさせられたひとときでした。