あなたが一番愛おしいのはだあれ? 仏教と少年の詩が教える平和への小さな一歩

2025年6月9日

「この世で一番愛おしいのは、誰ですか?」
もし、そう問われたら、あなたは何と答えるでしょうか?

昔、インドのコーサラ国に、プラセーナジットという王様と、マッリカーという大変聡明な王妃さまがおられました。お二人は大変仲が良く、国民からも尊敬されていましたが、ある日、王様が王妃さまに、まさにこの問いを投げかけました。「自分よりも愛おしい者がいるか」と。王様は内心、王妃さまが「それは王様です」と答えることを期待していたかもしれません。しかし、王妃さまは正直に「いいえ、私には自分より愛おしい者はいません」と答え、逆に王様に同じ問いを返しました。王様もまた、「私もまた、自分より愛おしい者はいない」と答えられたのです。
この結論に少し不安を覚えたお二人は、お釈迦さまのもとを訪ね、事の次第を報告します。すると、お釈迦さまは、その二人の気持ちを否定することなく、静かにこうお諭しになったと伝えられています。
「あらゆる方面に思いをめぐらしても、自分よりいとしいものは見いだせない。
そのように、他の人々にとっても自分は最もいとしいものである。
だから、自分を愛するあまり他人を害することがあってはならない。」

やっぱり、私たちは自分自身が一番可愛いのです。それは人間の自然な性(さが)であり、仏教もそれを否定しません。しかし、大切なのは、その「自分を愛する心」と同じように、他の人もまた、自分自身を一番愛おしいと思っているのだと、深く共感し理解すること。そして、その上で、「自分におきかえてみて」、他者を傷つけるような行いをしないこと。これこそが、仏教が説く「慈悲」の心の第一歩であり、あらゆる人間関係の基本となると教えています。

仏教の古い経典である『ダンマパダ』にも、
「すべての人々は暴力を恐れる。すべての人々にとって生命は愛しい。
自分におきかえてみて、殺してはならない。殺させてはならない。」
と、明確に説かれています。
この「自分におきかえてみる」という視点が、もし私たちの社会から失われてしまったら…。
それは、家族間の小さな諍(いさか)いから、やがては国家間の大きな戦争へと繋がってしまうのかもしれません。いえ、それは仮定ではなく、様々な場面で失われつつあると感じることが多くなっています。

沖縄の小学生、安里有生くんがよんだ「へいわってすてきだね」という詩をご存知でしょうか。
「へいわってなにかな ぼくはかんがえたよ
おともだちとなかよし かぞくがげんき えがおであそぶ…」
と、子どもらしい素直な言葉で平和のイメージを語り、最後に
「みんなのこころから へいわがうまれるんだね ぼくも ぼくのできることから がんばるよ」
と結んでいます。
この詩は、私たち大人に、平和とは決して誰かが与えてくれるものではなく、私たち一人ひとりの心の中から生まれ、そして日々の小さな「できること」の実践から始まるのだという、大切な真理を思い出させてくれます。

明日は、YouTubeショート動画の配信日です。お釈迦さまの言葉と安里有生くんの詩を通して、私たちが日常の中でできる「平和への小さな一歩」について、だれでもが気軽に視聴できる形で配信します。是非、ご視聴ください。また、大切な方にご紹介いただけると幸いです。

■ご紹介:『へいわってすてきだね』安里有生/詩 長谷川義史/画 ブロンズ新社/発行

投稿者について

福間 玄猷

1971年生まれ。本願寺派布教使・源光寺第14代住職 別名「絵本のお坊さん」 大阪府茨木市出身。平成8年三次市・源光寺へ入寺。《様々な経験を持った人々が集い、信頼できる温かなつながりを育む》そのような交流館を目指して、赤ちゃんからご年配の方まで世代を超えた活動を続けている。寺院や福祉施設はもちろん、各地の学校や保育所、コミュニティーセンター・いきいきサロンなどに招かれ、「いのち・こころ・真実を見つめる」ご法話や講演を重ねている。また、「子育て支援」「アドバンスケア・プランニング」「グリーフケア」を柱にした研修会も好評。子どもたちと富士山登山を3度完遂。グリーフケアアドバイザー1級/発達障害コミュニケーション初級指導者/つどい・さんあい 運営委員

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