「子どもは元気で明るい」
そんな先入観を持っている親や大人は多い。そして、「名前を呼ばれたら、大きな声で返事をしてね。」大きな返事が出来た子どもに「大きな声が出て元気が良いね」と、私も声をかけていた。そんな時、この絵本に出会った。知らず知らずに、私の子ども観を押しつけていたと気づいた。
この主人公は、大きな声が怖かったのだ。
今でも、大きな声が出せた時はしっかりほめている。しかし、大きな声が出せない時は、「大きな声を出しなさい」と子どもに指示するのではなく、「今は、大きな声が出せない時」なのだと、私自身が子どもの心の内をおもんばかろうとする新たな視点が生まれた。
大切な家族を亡くしたご遺族から、こんな言葉を聞く。「お寺さん、このたび家族が亡くなって、知り合いからいろんな言葉をかけてもらいます。今まで大切な人だと思っていた人から心ない言葉をかけられることがあり、その反対に今まで疎遠だった人から思いがけず温かな言葉をかけられることもありました。私自身ふりかえると、家族を亡くされた知り合いに、その時は精一杯のお悔やみの言葉をかけてきましたが、今となって、いかに形ばかりの声かけだったと気づかされます。だから、知り合いに「あの時はごめんなさい」とあらためて電話したほどでした。」
さて、本当に他人に優しく出来る時とは、どういう時であろうか。
苦しみ・悲しみ・悩みを抱えて、自分をふりかえらずにはいられなかった→
この苦しみ・悲しみ・悩みは自分一人だと絶望していた時に、ある人に支えられた→
そして苦しみ・悲しみ・悩みに、新たな意味を見いだすことが出来た。
そんな時に、人は本当に他人に優しく出来るように成長するのだと思う。
この絵本が「実話を元に誕生した」と知ったのは、この絵本を読みはじめて、すでに数ヶ月経っていた。あと書きをじっくり読んだその時だった。主人公は、末期ガンと宣告されながらも自分の姿を子どもたちにありのままに見せ、いのちの尊さ・生きる意味を教え続けた、神奈川県茅ヶ崎市の浜之郷小学校の校長・大瀬敏昭先生。闘病生活をする中で、あらためて子どもとの関わりを見つめ直されたものである。そして、「弱い子どもを守るのが大人の役目だ」と病を得たことで、自らの生き方や子どもたちに対するまなざしが大きく変化したのである。
除災招福を願うのは人間の素直な感情であるが、生・老・病・死といういのちの事実とその苦悩というものは、いつの時代であってもだれもが経験しなければならないものである。向き合わなければならなくなった時にこそ見えてくるものがあり、分かち合えるものがある心強さを、私はこの絵本からいただいた。 (記:源光寺住職 福間玄猷)
今日の絵本:
くまのこうちょうせんせい こんのひとみ/作 いもとようこ/絵 金の星社
金の星社
https://www.kinnohoshi.co.jp/search/info.php?isbn=9784323013640