昨日のブログでは、
「人間という生き物のどうしようもなさに、絶望を感じることもある私だ」と書いたのだが、
今日は、源光寺の本堂の掃除をしながら、絵本作家・かこさとしさんの波乱に満ちたご生涯ををふと思い出した。
かこさんは、今年5月に92才で亡くなられた。
だから、先日訪れた書店で「かこさんのコーナー」を目にした時は、うれしかった。
私自身、かこさんの絵本には多くの思い出がある。
中でも、『からすのパンやさん』を私はもちろん読んでいたし、
自分の子どもにも読んで聞かせ、一緒に絵本の中のパンを食べた経験もある。
『ならの大仏さま』は、修学旅行で奈良/東大寺に行く地元の6年生の事前学習として読んだこともある。
92才というお年から想像できるように、かこさんは戦争経験者のお一人だった。
中学2年生で、自らの進路を「軍人」と決め、そのために「数学と理科と心身の鍛練」に励むのだが、
2年後の身体検査で士官学校の受験資格がないと言い渡される。
戦前から戦後の混乱の中で軍国少年だった自らへの悔いや、
敗戦をきっかけに手のひらを返すように態度を変えた大人たちに対する不信感などを抱えながら生きた方だった。
子どもたちを支えるために生活困窮者を支援する「セツルメント活動」に力を注いだり、
サラリーマンと絵本作家の2足のわらじを履いていた時代もあったのだそうだ。
「自分で考え、自分で判断して、自分のちゃんとした考えを貫ける、
そんな賢い子になってほしい。それが私の願いです」
「大人の洗礼を受けていない子どもさんたちのために、少しでもお役に立てないだろうか。
せめて愚かで間違った判断をした自分のような人生を送ることのないよう伝えたい」
かこさん自身の悲しみや後悔や次世代への願いが昇華されて、
たくさんの楽しい絵本が世に送り出されていたことを、かこさん没後、私は知ることになった。
10年以上の歳月をかけ準備され、1995年に出版された『人間』は、
当時としては最先端の内容であっただろうし、現代にも十分通用し、
子どもだけでなく大人の私たちにとっても学び多いものとなっている。
その内容の正確さは、工学博士・技術士としても関わっておられた経歴からうなずける。
本書の最後は、こんなメッセージでしめくくられている。
「このように、その細胞や脳やからだや心に、宇宙・世界・地球の、
歴史と現在と未来とをやどしているのが人間です。
その人間のひとりがあなたです。
そのすばらしい人間が、君なのです。」
子どもたちへの慈愛に満ちたかこさんの言葉に、私も大いに励まされた。
そうだった。
人間の争いは、なかなか止むことがない。
しかし、その悲しみや苦しみを経験するからこそ、平和を願ってきたのだ。
さらに、願うだけでなくそれを形にするために、各人が出来る方法で発信してきたのだった。
絶望だけがあるのではなかった。後世の者は、先人の遺した形を通して、
平和を願う心をくみ取ってきたのだった。
そのことに気づいた時、私たちに託された願いをあらためて大切にしたいと思った。
■本日の絵本:
『人間』加古里子/文・絵 福音館書店/発行
https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=614
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■絵本のお坊さんが出来ること。
絵本の読み語り ご希望の場所に出向き、年齢にあわせた読み語りをします。
仏さまのお話(=ご法話の会) ご依頼の場所へ出向き、仏さまの教えをお話しします。
悩み事相談 人生・子育て・孫育て・人間関係・仏事などのご相談をお受けします。
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お寺でのボランティアをご紹介します。